【読学13】『経営者のためのリベラルアーツ入門』高橋幸輝著 ~経営者の教養は哲学と文学から、ものごとの本質をとらえる力を身に着ける!~
「どんな時代になっても、どんな難関が襲ってきても、自分は必ず生き残る経営者・リーダーになる」
そのために求められる究極の資質は3点だと著者は記しています。
・本質をとらえる力がある
・人間への理解力が深い
・決断の質が高い
経営の神様と称されるピーター・ドラッカーいわく
「マネジメントはリベラルアーツだ」
この本を読み進めていけばいくほど、すぐに答えが見つかるわけではありません。
しかしながら、経営者としてだけでなく1人の人として深みを増すことのできる本です。
本書は大きく3部構成になっています。
1.経営者にとってのリベラルアーツとは何か
2.「哲学」からアプローチするリベラルアーツ
3.「文学」からアプローチするリベラルアーツ
1.経営者にとってのリベラルアーツとは何か
リベラルアーツの起源は古代ギリシャにまで遡り、自由七科と言われています。
修辞学、論理学、文法学、数学、幾何学、天文学、音楽の七科です。
非常に幅広い内容ですが、本来リベラルアーツとは
どう考えるか、どう感じるかが重要で、そこに正解はなく、
難しさ、奥深さを感じつつ、そこに面白さを感じるものです。
リベラルアーツ=教養というイメージもあると思いますが
教養は、書物や礼儀作法から学ぶことができます。
しかし、経営者として最も大切なことがあります。
「究極の価値を問い続ける」
何が正しいのか?
幸せとは何か?
生とは?死とは?
まさに「哲学」が活きてくるという考え方です。
哲学では必ず自己の頭をつかいます。
本質への挑戦は、自分を高めるためには欠かせない事なのです。
自己の頭を使うメリットは2つあります。
①自分で考えた結果なので、その答えを選んだ理由がわかっている。
-自分で決断し実行した結果であれば、仮に失敗してもある種の割り切りが生まれるので、はるかに精神的に健全で人のせいにすることなく心が落ち着く
②応用がきく
-本質や真理を会得すると、色々と派生する問題の解決に応用ができるようになり、考えることでよりよく生きることができるようになる。
仕事だけでなく、プライベートで趣味の時間や旅行などでいつもとは違う環境にいる際も常に「なにか」「なぜか」を心に持つことも重要です。
物事の根源は「なにか」既成概念を疑ってみる、立場やスタンスを変えてみる、横断的にみる、そんな目線を用意してくれるのがリベラルアーツと言えるのだと結んでいます。
第2部「哲学からアプローチするリベラルアーツ」
このまとまりでは、リベラルアーツのベースである哲学について、効率よく要諦を抑えてある章です。
哲学者16名を著者が選び、それぞれのエッセンスを非常にわかりやすくまとめてあります。
「思考」「倫理」「政治」「経済」「文化・教養」「心理」と分けて書いてあるため、それぞれの分野ごとに哲学者の意思を共有することができます。
哲学は賢さではなく正しさを教えてくれる。
ビジネスで言えば
賢さ=いかに利益を上げるか
正しさ=自社はどのような存在であるべきか
スキルとしての賢さが重宝されがちな中でこそ、「正しさ」が大きな意味をもつのだと著者は言います。
個人的には世阿弥の「3つの初心」と南原繁の「真理を求める姿勢」について書かれているところが非常に心に響きました。
第3部「文学からアプローチするリベラルアーツ」
最後の章でも経営者として、この文学作品は読んでおきたいというものを取り上げて、あらすじを含めて読みやすく書かれています。
経営者・リーダーに求められることは、
自分自身への深い洞察や他者を理解する能力です。
文学から受け取る感受性は、経験の積み重ねの量と共に強まっていく傾向があり、
文学を通じ、異なる時代と立場のキャラクターに感情移入し、自らを置換することで他者の人生を追体験できる。
「仕事は人があってなせる」
そのために人を理解することこそがリーダーとしての最重要課題となる、
と著者は言っています。
中でもシェイクスピアについては世界の経営者が必ず読んでいるという点で大きく取り上げられています。私自身も、シェイクスピアは子どものころに本や映画、劇などで少し知っている程度です。
しかしながら、本書を読みあらすじや、人物の捉え方を変えるだけで相当深い話であることが理解できます。改めて大人になって読んでみると、残虐な部分にも目を背けずに、登場人物の心理まで考察することで、他者の理解を進めることができるのだと実感しました。
他にも中学生時代に国語の教科書で読んだ「オツベルと象」も取り上げられており、物語を思い出すと同時に、別の視点での捉え方に面白みを感じることができます。
本書全体を通じて、リベラルアーツの意味を知る、まさに入門書という位置で読んでいくと大変面白いです。20代の若い方にも読んでいただきたい書でもあります。
小手先の考え方だけでなく、広く、深く物事を理解する重要性がこの本を通してわかります。また、本書の良いところは、作品や人物ごと、最後にそれぞれの人物の「付言」というかたちでまとめてあるところです。
例えば、「オツベルと象」の作者、宮沢賢治のところでは最後に
「永久の未完成 これ完成である」
という宮沢賢治の有名な言葉で締めくくっています。
他にも
「人間は意味を求めて生きる生き物だ(プラトン)」
「多数の友を持つも者は一人の友も持たない(アリストテレス)」
など、心に響く一言で終わっているため、そこでもじっくりと考えさせられます。
普段の何気ない言動でも、相手をよく見る必要性。
自分の身の回りに起こる何気ない出来事。
日常の中でも常に「なにか」「なぜか」を自分自分に問い続けるという大切さを気づかせてくれる素晴らしい本です。